あれ、そなたはどちらさまでしょ。
ここはけもの道でございます、ひとが行く道にはございませぬ。
あら、ご存じだと。なればどうしてここに?
あらまあ、私に会いにいらしたと。
それはまあ御苦労なことで。一体どうして私などに?
あやかしの話を聞かせて欲しいと。
まぁまぁ酔狂な。
よろし、お聞かせしましょうか。
ああ、その前に自己紹介など。
私、黒い毛並みの元はただの狐でございました。
運よくこの年まで生き延び、あやかしとして人型をとることも間々あります。
弱いあやかしなので決まった住処を持たず、各地をこうして転々として暮らしております。
おや、そんなこと知っている、早くお前が見聞きしたことを話してはくれまいか、と?
まあまあ物事には順序というものがございます。
そもそもあなたさまは何故私なぞにあやかしの話を聞きに参られたので?
あら、あらあら書物にしたい、と。
都の話の手土産に。
それはそれは。確かに私のような弱いあやかしからでしか聞けないでしょうね。
気性の荒いものならすぐに引き裂かれておりますわ。
まあ、もう数人やられたと。
うふふ、それはそうでしょう。皆そう教えたがりやしませぬから。
私はどうかと?ふふ、か弱い私にそんな力があるはずもなし。
大人しく語りましょ、私が見聞きしたこと全て。
まずは、そうですわね。
人嫌いの妖狐と、人を好む天狗の話でございます。